そこは兄、レックスの病室だった。
1つのベッドしかないガランとした白い部屋で、外からの採光が白い壁に反射し、一層目に眩しかった。
レックスに表情はない。ヴァンのことも認識出来ない。
彼は国王の暗殺者として拘束された後、厳しい尋問と、証言を引き出すための薬物投与によって人格を破壊され、廃人となってしまっていた。
ヴァンはレックスの好きだったガルバナの花を差し出し、問いかけた。
兄さんは、本当に王様殺しの一味だったのかい・・・?だとしても、そうだとしても、バッシュ将軍に騙されたんだよね?
ヴァンの目の前で、兄の幻影は光りの中に溶け込んでしまった。
ヴァンが、兄レックスの夢から覚めると目の前にバルフレアがいた。
「・・・ここは?」
「牢獄さ。見ての通り、地下牢ってとこだな」
ヴァンは起き上がり、朦朧とした意識で歩き出そうとしたが、足元に横たわったバンガの死体につまずき、驚いた。
「びくびくするなよ、ただの死体さ。いちいち驚いてたら身がもたんぞ」
ようやく意識がはっきりしたヴァンは、フランの姿がないことに気づいた。バルフレアは、フランは抜け道を探しにいったと言うが、牢獄に抜け道なんかあるのだろうか?しかしバルフレアはフランを信じて止まないようだ。
突然、奥の方で悲鳴が聞こえた。
ヴァンは、「巻き込まれるのがオチだ」と警告するバルフレアの言葉に耳を傾けず、悲鳴のする方に足を進めた。
牢獄の奥の方でシーク族のチンピラがよってたかって弱った囚人を襲っていた。その卑怯なやり口にいても立ってもいられなくなったヴァンは思わず暴行を止めに入った。
しかし相手は3人。武器も防具も持たないヴァンが一人で勝てるだろうか。
そこへバルフレアが助っ人に入った。2人は協力してシーク一味を退治した。
その騒ぎに気づき、帝国兵たちが牢獄に駆けつけてきた。帝国兵の中にジャッジの姿もあった。帝国を支配するソリドール家の武装親衛隊、帝国軍の実質的な指揮官と言われるジャッジがなぜこんなところに?
バルフレアはことの重大さに気づいた。
タイミングよく、抜け道を感知したフランが戻ってきた。出口は独居房にあるらしいが、扉は魔力に封印されているという。バルフレアは、ジャッジたちが出口の外に出る時に、どさくさにまぎれて脱出するチャンス!とばかりに早急にその場を離れた。