覇王の辿った道

かつて年代もわからぬほどの遠い昔、オキューリアはイヴァリースに君臨していた。歴史の過程で闇の異形者が彼に反旗を翻したが、敗北の末に封印され、召喚獣となった。その後オキューリアは突如としてギルヴェガンに隠れ住み、イヴァリースから姿を消した。支配者不在の混乱期を迎えたイヴァリースだったが、ガルテア連邦時代に貴族レイスウォール誕生した。彼はオキューリアが封印した召喚獣、魔人ベリアスと戦い、屈服させた後に英雄となった。そんなレイスウォールをオキューリアはギルヴェガンに招き、契約の剣を授けたと言われている。こうして覇王レイスウォールの足跡の一途となったギルヴェガンは、幻妖の森のどこかにあると噂されるだけで、正確な位置はわかっていない。並々ならぬ濃さのミストが渦巻いている影響で、心身に異常をきたすと恐れられ、近隣に住むヴィエラ族も滅多に近づかない場所だった。
それを承知で森に入ることは、フランにも覚悟が必要だった。また、ヤクトの影響でシュトラールで近づくこともできないので、一行は再び徒歩で幻妖の森へ向かった。


ゴルモア大森林からだいぶ標高の上がったところに幻妖の森への入口があった。気候は寒冷で、あたりには小雪が舞っている。霧深く、視界が悪いので途中までは、どこをどう歩いているのかも見当がつかった。尋常ではない濃厚なミストに、フランの唇から血の気が消えていった。パンネロはフランを気遣い、寄り添って進んだ。
どれくらい歩いただろうか。フランの手が氷のように冷たくなっているのをパンネロは不安になりながら、徐々にミストが薄くなっていく感覚を覚えた。それまで息絶え絶えにモンスターと戦っていたフランも、ミストが晴れ出すと、いつものフランに戻りつつあった。やがて、視界がはっきりとするほどミストが晴れた先に、魔石装飾され光り輝く華麗な門が現れた。
一行が門に触れると魔人ベリアスが召喚され、門を開けてギルヴェガンへの道を開いた。思えば、レイスウォールに神授の破魔石「暁の断片」の守り神として選ばれた魔人ベリアス。ギルヴェガンへの扉を開ける権利が、そのベリアスにのみ許されている事に一同は納得した。

古代よりこの森に生きてきたヴィエラにさえ、その「古代都市ギルヴェガン」の名前の由来が伝えられていなかった。鏡のように静かな湖の先には古代の建造物が立ち並び、転移装置を使わないと対岸に進むことはできなかった。
「・・・似ているわ。あの影の気配に・・・」フランが、ミュリンやベルガ、シドから感じた「ナゾの影」の雰囲気をそう伝えた。
「ヴェーネスか・・・・」
バルフレアは、シドの到着が遅い事に苛立ちながらも、 フランの「影」という見解をそう解釈していた。
「シドは遅れて到着らしい。ここで待ち伏せするぞ」バルフレアがそう言い終わらないうちに、アーシェが突然、何かに導かれるように歩き出した。
「何かいるのか?」
バルフレアの問いかけにも気づかずに、アーシェが操られるように奥へ進んでいく。
アーシェの前に、夫ラスラが立っていたのだ。ラスラの幻影は、まるでギルヴェガン内部への水先案内人のように、アーシェを古代都市の内部へと誘導した。
仲間達が、そんなアーシェの足取りを奇怪に思う中、 ヴァンにはもう見えなかったが、多分、そこに「あの人」がいるのだろうと、察知していた。ラスラの幻影に導かれるアーシェを追い、一行はギルヴェガンへ入っていった。


古代都市は、いつの時代、誰によって作られたのか想像もつかない不思議な建造物だった。奥へ進むにはいくつものゲートを開放し、道無き道に突如として現れるクリスタルの橋を先に進むしかなかった。
パンネロが不安そうにヴァンの腕を掴み、「私たち、来ては行けないところに来てしまったような気がする」と言った。
「うん」ヴァンはそう頷き、パンネロの手をぎゅっと握ると「おもしろいよな」と、言葉を返した。
パンネロは何が面白いのかと、驚いてヴァンの顔を覗き込んだ。
「不安はないのか?このまま進めば、破魔石を想像した存在と出くわすかもしれん」
「少しは不安だけど、どんな奴か楽しみだよ」
バッシュの問いかけに明るく答えたヴァンは、パンネロと手をつないだまま、先へ進んでいってしまった。
その様子を見てバッシュは「君は良い空賊になるだろうな」と、頼もしいヴァンを微笑ましく見守った。


  • FF12ストーリー あまい誘惑