ラバナスタ騎士団はバッシュ将軍が率いる旧ダルマスカ王国軍の精鋭部隊だった。
その大半は2年前のナルビナ城塞での攻防にて戦死し、残った者もバッシュとともに国王暗殺に関与した罪に問われ、解体していた。ウォースラ・ヨーク・アズラスはその生き残りであったが、今はラバナスタの解放軍と称するレジスタンス組織を率いて、自分たちこそが往時の騎士団の精神を引き継ぐものだと考え、団結を誓って活動を続けていた。ダランには、今や内輪揉めの声も聞かれる解放軍メンバーに騎士団の剣を見せれば、以前の団結の誓いを思い出すだろうという計らいがあったのだ。
その頃、解放軍のアジトでは、バルハイムから脱出してきたバッシュの、国王暗殺の真実を信じるかどうかと、論議している最中だった。そこへ、かつて将軍として彼らの前を走っていた頃のように バッシュが身なりを整えて現れた。
「・・・・やっと、俺の知ってるバッシュになったな」皮肉のようにも聞こえるウォースラの言葉に、「ならばともに闘えるか」 と、バッシュも皮肉まじりに答えた。
解放軍のメンバー達はバッシュ本人を前にしても尚、 彼の言葉の真意を認めるかどうかと論議を続けた。「では、レックスも嘘をついていたのか?」 メンバーの一人が、興奮して声を荒げた。
「兄さんが嘘なんかつくかよ!」騎士団の剣をウォースラに渡すために 解放軍のアジトに入り、ずっと話を聞いていたヴァンが 思わず彼らの論議に割り込んだ。それを見たバッシュは、少しだけ優しい声でヴァンの意見に補足した。
「・・・そうだ。レックスは目撃者に仕立てられたのだ。私が陛下を暗殺したと見せかける 帝国の陰謀だ」そう言って、ヴァンを見つめて、さらに声音を和らげた。「・・・よくよく縁があるな」
ヴァンはバッシュの優しいまなざしに戸惑い、言葉を失った。
「レックスの弟か」
ウォースラは、ヴァンにレックスの面影があったので、すぐに彼の弟であることに気づいたのだ。しかし、冷たい仕草でヴァンが手にしている騎士団の剣をひったくり、バッシュに言った。
「・・・こんな子供なら、信じるかもしれんが、お前の話にはなんの証拠もない。ともに動くわけにはいかん」
「アマリアは救うべき人ではないのか?」バッシュが言った。
・・・・アマリア。
ガラムサイズでのヴァンの記憶が鮮明に蘇った。刺すようにキツく、張り裂けるくらい悲しそうな表情をしていた、あの女性のことだ。
動揺を隠しきれないウォースラの表情を見て、バッシュの中である確信が生まれたようだった。
「・・・オンドール同様、おまえも帝国の犬かもしれん」
「ならばどうする。俺を拘束するのか」
怖じ気づきもせずはっきりと言葉を返して来るバッシュを、 ウォースラは睨みつけた。二人の視線が激しくぶつかり合い 緊張した沈黙が周囲に漂った。
やがて、観念したようにウォースラがバッシュに騎士団の剣を放り投げた。バッシュはしっかりとその剣を受け取り「お前はかわらんな、ウォースラ」
バッシュの言葉に負け惜しみを言うように「忘れるな、バッシュ。ダルマスカ全土には解放軍の目が光っている。 お前はカゴの鳥も同然だ」と、ウォースラ。
「かまわん、それならもう慣れた」
バッシュはそう答えて、ヴァンとともにアジトを去った。