バッシュの信念

帝国への復讐か、それとも友好か。苦悩しながらも、答えを出すためラーサーの同行を受入れたアーシェだったが、その後も気持ちが晴れず、憂鬱そうな表情をしていた。そんな彼女をバルフレアはさりげなく励まし、それにより元気を取り戻すアーシェの変化にバッシュは気づいていた。もう、だいぶ前、もしかしたら、出会った当初からそうだったのかもしれない、アーシェの、バルフレアへの思い入れを、バッシュなりに、いろいろと解釈していたのであった。
バルフレアはあまり感情を外に出さない。だからバッシュには、バルフレアがアーシェに同行する、その真の目的について知る事が出来ないでいた。バルフレアが1人になったのを見計らって、バッシュは彼に近づいていった。
「・・・神都ブルオミシェイスはヤクト・ラムーダの北部だ。ヤクトに入れば、飛空挺の追撃は避けられるか?」
「望み薄だな。リヴァイアサンはヤクトを飛び越えて、直接レイスウォールへ乗りつけた」バッシュの問いにそう答えたバルフレアはため息まじりに言葉を続けた。「ヤクトでも飛べる新型飛空石・・・・可能にしたのはどうせ破魔石だ。ったく、奴らが必死で狙うわけだよ」
「それではきみこそ何が狙いだ?同道してくれるのは心強いが」静かな口調だが、少し緊迫したバッシュの声にバルフレアは敏感に反応した。
「・・・破魔石を奪う気じゃないかって?まぁ、仕事柄、疑われるのは慣れているが、今はそんな気は欠片もない。なんなら剣にでも誓おうか?」 バルフレアらしい答えに、バッシュは少し安心してすぐに誤解を解くように言葉を返した。「すまん」そう言って、前を行くアーシェを見つめた。「・・・殿下は君を頼っている。真意を知っておきたかった。 君が石にこだわっているように見えてな」
「物語の謎を追う・・・・主人公なら誰でもそうだろう?」と、バルフレアらしい、おどけた口調で答えた。


19年前、バッシュは生まれ育った故郷ランディスを守りきれず、2年前にはダルマスカをも守れずに滅亡させてしまった。それゆえ、我欲を捨て、人々の命を守ることが騎士としての自分の使命であると、今は強い信念を持っている。そして、これからダルマスカという国を立て直す国王としてのアーシェの役目はいかなるものかとずっと考えてきた。かつてリヴァイアサンからアーシェを救出する時、彼女が「屈辱よりも死」を望み、利他的になれなかったことをよく記憶していたからだ。今も自らの名誉を守るためにアルケイディアとの友好を受入れられないでいるアーシェに、国王としての真の務めを思いだしてほしいと願っていた。
バッシュはヴァンたちと無邪気にふざけあう幼いラーサーを複雑な表情で見つめているアーシェにそっと言葉をかけた。
「ダルマスカと帝国の友好・・・・ですか・・・・」
「頭ではわかっているのよ。今のところ大戦を防げる唯一の手段だわ。でも私に力があれば、そんな屈辱!」アーシェは吐き捨てるようにして答えた。
「我々にとっては屈辱でしょう。しかし民は救われます」
「あなたは受け入れられるの?!」アーシェは激しくバッシュに反論した。
「・・・・私はヴェインに利用されて名誉を失いましたが・・・」そう言ってバッシュは、前を行くラーサーに目を移した。「人々を戦乱から守れるのであれば、どのような恥であろうと、甘んじて背負います。国を守れなかった、その恥に比べれば・・・・」
「・・・みんな帝国を憎んでいるわ。受け入れるはずがない」アーシェはそう言ってみて、ハタと立ち止まった。 バッシュは立ち止まったアーシェの横顔をそっと覗き込んだ。
帝国を憎む・・・・たしかに民は憎んでいるだろう。しかしそれは、身内を殺された恨みやプライドを優先するために、民の憎悪を口実にしているようにも聞こえた。バッシュはそんなアーシェの心をよくわかっていた。「・・・・希望はありますよ」そう言って、再び瞳をラーサーに移した。
ラーサーは楽しそうにヴァンとふざけあっていた。 その姿は、単に無邪気な子供が他愛ない会話をして楽しんでいるようにしか見えなかった。まだあどけないが、皇帝としてのラーサーの器もバッシュはよく観察していたのだった。
「・・・・あのように、手を取り合う未来もありえましょう」
ダルマスカの未来は必ずあるのだと、その未来を守るのが国王であり、自分のような騎士なのだと、そういった自分の信念をバッシュは決して曲げようとはしなかった。


  • FF12ストーリー あまい誘惑