全身を強打し、傷だらけになったガブラスをバッシュはシュトラールのキャビンに設けた簡易ベッドに運び込んだ。
その様子を見守るラーサーの無事な姿に安堵し、ガブラスは最後の力を振り絞ってバッシュに言った。
「・・・・バッシュ。ラーサー様を頼む。今、ソリドールが滅びれば、帝国は崩壊し、戦渦は内戦へと広がろう」
「わかっている」バッシュは弟を安心させるように、何の迷いも見せず、力強く答えた。
「ラーサー様は最後の希望だ」
ラーサーは、そんなガブラスの手を握り、兄ヴェイン、そして彼を思い、静かに涙した。
シュトラールのコックピットでは、バルフレアがエンジンをかけようとしていたが、反応がないことに焦りを覚えていた。
「どうだ、飛べそうか?」同じく船体に異常を感じて計器を調べているフランに訪ねた。
「・・・・グロセアエンジンに燃料がいってないわ」フランの答えにバルフレアは、クソッと言いながら席を立った。
「ヴァン!代わってくれ。エンジンルームを見て来る」ヴァンは、OK、と言って操縦席に着いた。
「フラン!来い」バルフレアがフランとともにコックピットを出ようとした時、シュトラールを爆発の衝撃が襲った。
「・・・見て!バハムートのグロセアリングが止まる・・・」アーシェがバハムートを指差した。あのままだと、バハムートはラバナスタ市街地で爆沈する・・・・
バルフレアはその様子を見て、決意するようにコックピットを離れた。「ヴァン。シュトラールのグロセアリングが回転し始めたらすぐに発進だ。教えた通りにやれ!お前なら飛べる!」
「・・・わかった」ヴァンはバルフレアに答えた。
フランもパンネロを副操縦席に座らせると、落ち着いた口調で言った。「パンネロ。バハムートの飛空石の干渉に気をつけて。あなたがシュトラールの感情をコントロールするのよ」
「うん、やってみるよ」
バルフレアとフランは頼もしそうに2人を見届け、コックピットを出て行った。
それからそんなに時間がかからずシュトラールのグロアリングエンジンが回転を始めた。どうやらバルフレアたちは、うまく修理してくれたようだ。
「出力が戻った!ヴァン、いける!」嬉しそうにパンネロが言った。
「よし、行くぞ!みんな、つかまって」ヴァンは、レバーを引き、バルフレアの指示通り、すぐにシュトラールを発進させた。
間もなく修理を終えたバルフレアとフランが、コックピットに戻って来る。
そう、信じて疑わなかったからだ。
帝国軍と戦火を交えていた解放軍の艦隊が、シュトラールの脱出を確認していた。
ガーランドで未だ指揮をとっていたオンドールの元に、その報告が入っていた。
「・・・そうか、出て来たか!」オンドールは思わず立ち上がった。「バハムートは墜ちた!これが最後の戦いだ。一気にジャッジどもを全滅させるぞ!主砲をアレキサンダーへ向けろ!」オンドールがそう言って、指揮をとろうとした直後、通信機からガブラスの声が聞こえてきた。
もちろん、喋っているのはガブラスではない。ガブラスの最後を看取り、変声機でガブラスに成りすますバッシュだった。
「攻撃を停止せよ!私はジャッジマスター・ガブラス。繰り返す!アルケイディア軍全艦に告ぐ! 攻撃を停止せよ!戦いはもう終わりだ!我が国はダルマスカ王国のアーシェ・バナルガン・ダルマスカ王女と ・・・・停戦を合意した!」
ラーサーはバッシュが持っていた通信機を引き継ぎ、マイクに向かって喋りだした。「我が名はラーサー・ファルナス・ソリドール。兄ヴェインは名誉の戦死をされた。 以後、艦隊は我が指揮下となる!」
ラーサーの言葉を聞き、オンドールは戦争をやめるべきかどうか、悩んでいた。
「私はアーシェ・ダルマスカです」今度はアーシェがラーサーから通信機を引き継いだ。
「アーシェ様!ご無事であったか!」アーシェの声を聞き、オンドールは安堵の声を出した。
「ジャッジマスター・ガブラス、そしてラーサー・ソリドールの話は本当です。お願いです。戦闘をやめてください!戦いは終りました。 私たちはもう・・・・自由です」
アーシェは感極まって泣き出してしまった。
ラーサーとオンドールが合図をすると、ラバナスタの上空で行き交っていた解放軍と帝国の戦闘機は一斉に退却し始めた。