「世話になったな」
ラバナスタの南門でバッシュはヴァンと、そしてバルフレアとフランにそう言った。
「オレなら人ごみは避けるね。この街ではあんたはいまだに裏切り者だ」バルフレアらしい遠回しな忠告をよそに、
「縁があったらまた会おう。レックスの墓参りをしたい」そう、ヴァンに言い残してバッシュは人ごみの中に消えていった。
そしてバルフレアとフランもヴァンの前を去ろうとした。
「魔石はいいのか?」ヴァンは思わずバルフレアを引き止めていた。
「好きにしろ。あれは縁起が悪い」
フランは面倒に巻き込まれることが嫌いなバルフレアのことも、もう少し冒険を楽しみたいヴァンのことも見抜いていた。
「後悔しているのよ。あれを狙ったせいで面倒に巻き込まれたから」
「くれるのか?」ちょっとからかった口調でバルフレアは質問したが、「オレのだ」と、ヴァンはムキになって答えた。
「じゃあ聞くな。お嬢ちゃんによろしくな」
「しばらくラバナスタにいるわ」フランがそう言い残して、二人は去って行った。
ヴァンは手の中の魔石を見つめ、「・・・・兄さん。バッシュを信じていいのかな」そう呟いて、3人が去っていった方角を見つめた。
「さっさと売ろう、こんなもの。まぁ、売る前にパンネロに見せてやるか」そうしてヴァンは元気よく、パンネロが働くミゲロの店へ向かった
ラバナスタ解放軍は、一般兵や当時参戦しなかった若者が中心となっている。旧ダルマスカ騎士団員はほとんど2年前に戦死し、解放軍が騎士団本来の精神を受け継いでダルマスカの復興を目指していた。しかし、ラバナスタ王宮で返り討ちに遭って以来、壊滅状態に追い込まれていた。その矢先に処刑されたはずのバッシュが現れ、国王暗殺の真実を聞かされた。バッシュの話を信じるか信じないかで、解放軍は内輪揉めしていた。ダランは独自の情報網からその内情を入手していて、すっかり混乱している解放軍をいさめようと考えていた。
そこへひょっこりと、ナルビナ城塞地下牢から脱出してきたと、ヴァンが現れたのだった。
ヴァンは得意そうに獲物である「黄昏の破片」をダランに見せながら「ダラン爺がいろいろ教えてくれたおかげだよ」と言った。
「ふむ」少し会わないうちに、随分と成長したものだ、とダランはヴァンの素質を見抜いた。
「よし、ヴァンよ、お前を見込んで頼みがある。カイツに任せるつもりでおったが、お前の方が ふさわしかろう・・・・いや、お前でなくてはならん」 ダランはそう言って何かを取り出してきて、ヴァンの目の前に差し出した。 「・・・こいつをな、アズラスという男に届けてくれんか」
そう言って差し出された剣を見て、ヴァンは興奮して答えた。
「これって、騎士団の剣じゃないか」
「うむ」 そう頷いてダランは剣を差し出した。
「よいか、かならず本人に直接渡すんじゃぞ。わしの名前を出せば取り次いでくれるはずじゃ」
ヴァンは、騎士団の剣を受け取り、ダランの言葉に小さくうなずいた。
「そうだ、ミゲロさんの店にパンネロがいなかったんだ。探しておいてくれるかな」
ヴァンの言葉にダランは微笑ましそうにうなずき、ヴァンを安心させた。