ヴェインの最期

さすがのヴェインも、ラーサーを含めた7人がひとまとまりで攻撃してくるのには耐えられなかった。やがて力つき、床にどっと倒れ込んだ。 思わずラーサーが駆け寄ったが、その瞬間、閃光が彼を襲った。
パンネロが悲鳴を上げた。
ラーサーは気を失い、その場に倒れた。
やがてヴェインの体から濃厚なミストが立ち上った。 と、同時にみるみる体が膨れ上がり、顔も体も醜く変貌していった。
「人造破魔石・・・・」
さらに進むヴェインの恐ろしい変貌を目の当たりにしたアーシェが思わず叫んだ。ヴェインもまた、体内に人造破魔石を埋め込んでいた。
「シド・・・・友が遺してくれた力だ」
ヴェインは辛うじて理性を保ち、ずっと彼らの様子を見守っていたガブラスに気づき、言った。「・・・・ガブラス。ラーサーを守れ。ここからは地獄に変わる」
ヴェインはなおもラーサーを守ろうとしていた。彼はこれから自分が暴走することを察知していた。ついに自我を喪失した時、ラーサーを自分の手で殺したくない、という情けはまだ残っていたのだ。そのため、ラーサーを襲った閃光も、ヴェインがこの先の戦いから弟を遠ざけようと 人造破魔石の力で放ったものだった。
ガブラスは、そんなヴェインに剣を向けた。「ラーサー様をお守りする」
「野良犬が。死をもって償え」
「そのつもりだ!」

ガブラスの攻撃を受けた直後、変化したヴェインは剣セフィラをガブラスに放った。その一撃でガブラスの兜が裂けた。
兜の隙間から、ガブラスの瞳がヴェインを見据えていた。
「・・・野良犬にも意地はあるのだ!」そう言って襲いかかって来たガブラスを、すでに理性を失いつつあるヴェインが人間とも思えぬ力で吹き飛ばした。
ガブラスの体は強い衝撃を受けて床に叩き落とされ、もう、立ち上がる事も出来なくなった。思わず駆け寄ってきたバッシュを見つめ、力を振り絞ってガブラスが言った。
「・・・これが・・・・償いだ」
「許さんぞ!ガブラス!」ヴェインは、セフィラを操りガブラスにとどめを撃とうとした。
が、そのとき・・・・ピカっと何かが光り、セフィラの動きが止まった。
一同は驚いて、その閃光の発する場所を見つめた。人造破魔石を手にしたラーサーが立っていた。
その人造破魔石の光に導かれ、セフィーラが次々と石の中に吸い込まれていく。そして、全てが吸い込まれると、破魔石は跡形もなく消失した。
その様子に呆然としていたヴェインに、ヴァンがガブラスの剣で一撃を加えた。
不意をつかれ、よろめきながら、その場を去ろうとするヴェインにとどめを刺そうと、ヴァンが襲いかかろうとしたが、 ヴェーネスが現れ、行く手を阻んだ。
ヴェインがその場から姿を消すと、ヴェーネスも姿を消し、ヴァンたちは、その後を追った。
ガブラスは、その一部始終を見て、バッシュに微笑んだ。自分の死をかけて守ろうとした主君ラーサーに、逆に助けられたことに満足をしていた。
「・・・・悪くない主だろ?」ラーサーの事をそう言って褒め、バッシュの腕の中で静かに目を閉じた。
しかし、ラーサーは兄の変わり果てた姿に、絶望して立てなくなっていた。そんな彼の肩をパンネロがやさしく抱いた。


ヴェインはバハムートの甲板に出ていた。
「ヴェーネス! 」よろめきながら、隣で見守るヴェーネスに向かって言った。「どうやら私は、覇王になり損ねた。君の願いは別の人間に託してくれ」
そんなヴェインに対し、ヴェーネスは静かな声で答えた。「とうにかなえられた。繭は砕け、破魔石の歴史は終った。世界はもはや、不滅なるものを必要としない。」
永久とも言える長い歳月を生きながらえ、世界の歴史を破魔石によって支配してきた「不滅なるもの」オキューリア。シドとヴェーネスの目的は、破魔石の根源となる天陽の繭を砕き、オキューリアによる支配に終止符を打ち、歴史を人間に手に取り戻すことだった。その目的を果たしたヴェーネスにとって、神授の破魔石の選ばれし者となる覇王は必要がなかった。もう、思い残すことはなかったのだ。
「君の歩みを見届ける。共に行こう」ヴェーネスを象っていたミストが吸収され、ヴェインの体に埋め込んだ人造破魔石に力を与えた。
「・・・・新たな歴史を告げよう。シドが待っている」
ヴェインはミストの閃光で上空を飛び交う飛空挺を破壊し、その残骸を体の中に取り込み、 挙げ句はバハムートを渦巻くミストまでも奪い、体中に充満させた。
それは恐ろしい光景だった。ヴェインの体は、もう、人間の原型をとどめていなかった。機械の破片や、鉄くずで合成された、モンスターでしかなかった。
その姿を見つけたヴァンたちも、あまりの恐ろしさに思わず後ずさりした。自分と同じ人間が、こんな恐ろしい化け物になり得るのだろうか、と。
このまま放置すれば、ヴェインはバハムートの全てのミストを吸収し、さらに手に負えないモンスターになってしまう。
全てはダルマスカのために!
そして平和と自由を取り返すために!
彼らは、力を合わせ、ヴェインに立ち向かっていった。


ベルガやシドがそうだったように、やがてヴェインもミストを使いすぎて、精神も骨格も限界に達していた。
機械で合成された体のあちこちが剥がれ落ち、中に隠れていた肉体が露出するようになった。ヴァンたちの物理攻撃も有利に運ぶようになり、ヴェインは魔法障壁を張って抵抗した。
最後の絶対防御が切れると、アーシェは魔力を最大限に発してとどめを打った。ヴェインは雄叫びを上げ、自ら発したミストの渦に体ごと、吸収されてしまった。
残されたものは、ヴェインが体に取り込んだ機械や、鉄の破片。ヴェインの原型を確認できるものは何ひとつ残らなかった。
勝ったのだ。
アーシェの胸の中に感慨がわく。その表情は、穏やかで、美しかった。
そしてバッシュが、そんなアーシェを見守っていた。
しかし、上空では、未だ解放軍と帝国が戦火を交えていた。
戦いを止めなければ。
アーシェは、ダルマスカ君主としての使命に燃え、きっと顔を上げた。


  • FF12ストーリー あまい誘惑