なぞの少年

空中都市ビュエルバは、ナルドア海上空に浮かぶ空中大陸軍の自治都市国家で、オンドール家が代々統治を行なっている。2年前、親交の深かったダルマスカ王国がアルケイディア帝国に侵攻された際には、表面上は帝国寄りの姿勢を見せて、アルケイディアとロザリアの圧力から逃れ、自由な気風を保っていた。
しかし、この日、シュトラールがビュエルバに入港すると、ターミナル内は、何やらただ事ではない雰囲気だった。用心深く様子を伺うバルフレアの脇を、アルケイディアの帝国兵達が血相を変えて通り過ぎていった。
「だめです、いません」
「よく捜せ!」
走り去っていく帝国兵達を見届けると、バルフレアはバッシュに耳打ちした。「あんたは死人だ。用心してくれ、名も出すな」
真顔のバルフレアに、バッシュは、無論だ、と静かに頷いた。
バルフレアの話によれば、バッガモナン達が呼び出したルース魔石鉱は、ビュエルバの街の奥に入口があるようだ。「最近であそこの魔石は品薄らしいが・・・・」バルフレアがそう呟いたあと、突然、見知らぬ少年が彼らに近づいてきた。
「魔石鉱へ行かれるんですね」
一行は驚いて後ろを振り返った。
「・・・僕も同行させて下さい。奥で用事があるのです」
まだ年端もいかない幼い少年が笑顔で立っていた。その身なりは、どう見ても庶民のそれではなく、高貴で、さりげない素振りに知性が漂っていた。
「どういう用事だ?」険しい表情でバッシュが言った。
「・・・・では、あなた方の用事は・・・・?」
少しからかうような少年の口調に、バッシュは言葉を失う。
「・・・・いいだろう、ついてきな」
バッシュと少年のやり取りを興味深く眺めていたバルフレアが、突然、言葉を挟んできた。バルフレアの意外な答えに、ヴァンは自分の耳を疑った。
「助かります」少年が少し頭を下げる。
バルフレアは無表情だが、警告するような口調で付け加えた。「オレたちの目が届くところにいろよ。その方が面倒が省ける」
「・・・・お互いに」
少年の、やや上から目線の態度に、フン、と鼻を鳴らすバルフレア。

バルフレアが一体何を考えてるのか全く理解できなかったヴァンだったが、まだ若く、柔軟であったので、すぐに少年を受け入れた。そしてこの風変わりな少年に興味を持ったようだった。
「お前、名前は?」
少年は、ヴァンの率直な瞳を見て、「・・・ラ・・・」と言って、しばし戸惑い、言い直すように言葉を続けた。「ラモン・・・です」
「わかった。たぶん、中でいろいろあるけど、心配ないよ」ヴァンは調子づいて「なぁ、バッシュ」と、後ろを振り返った。
子供とはいえ、ただならぬ雰囲気のあるラモンの前で思わずヴァンはバッシュの名を呼んでしまった。バッシュとバルフレアはあきれ果て、憎めないお調子者のヴァンを少し微笑ましく思いながらも、互いに顔を見合わせ、ため息をついた。


  • FF12ストーリー あまい誘惑