オンドール侯爵邸に入り込むために、ヴァンたちはいろいろと作戦を練っていた。
ハルム・オンドールは魔石鉱の所有権を帝国から守るためには、断じてビュエルバの領主であることを守らなければならない。おそらく帝国は、彼を脅迫するタイミングを見計らっており、反帝国組織はオンドールの影で帝国に反撃する準備をしていた。そんな彼らが最も恐れていることは、オンドールの立場が揺らぐことだった。
オンドールはバッシュの処刑を公表した当の本人だ。
ヴェインははなから、オンドールと友好を結ぶ気などなかった。彼が欲しいものは、オンドールが所有する有数の魔石鉱だ。だから、バッシュを処刑せず、その生存を切り札にすれば、オンドールの立場を揺るがすことが出来る。
バッシュには今、オンドールと反帝国組織に自分の生存を仄めかすことがどういう意味になるのかよくわかっていた。自分が生きていることがわかれば、反帝国組織は慌てて動き出すだろう。オンドールを守るために・・・・
「じゃあ、オレが町中に言いふらしてやるよ」お調子者のヴァンが得意そうな顔をして、大声で言った。「オレがダルマスカのバッシュ・フォン・ローゼンバーグだ!!!」
唖然としてヴァンに注目する通行人たち。「どうだ?」さらに得意そうになってヴァンが鼻の下をかいた。
「まぁ、目立つのはたしかだな」苦笑まじりにバルフレアが答え、「よし、ヴァン。お嬢ちゃんを助けるためにもやるだけやってこい!」と、ヴァンの背中を押した。
ヴァンの作戦はまんざらではなかった。バッシュが生きている、と叫べば街行く人が興味深そうに彼に注目した。ヴァンは調子づいて、どんどん行動がエスカレートして面白がった。そして、突然、背後から、腕を掴まれた。ヴァンは、しめた、と思った。彼の思惑通り、怪しい集団に、酒場の奥まった部屋へと連行された。
「連れてきたぞ、ハバーロ。こいつが”将軍”だとよ」バハーロと言う男の前に、ヴァンは乱暴につきだされた。
バハーロはヴァンを見て、ふふん、と鼻を鳴らした。「似ても似つかんな」
「タチの悪いいたずらしやがって!」一同は、ヴァンが本物のバッシュではなかったことを悔しがったが、バハーロは用心深く続けた。「ただのイタズラならいいが、そこらのガキがローゼンバーグ将軍の名乗るとは思えん。最近、帝国がかぎ回っているから油断は出来ん」そう言って、ヴァンを締め上げて背後関係を吐かせろ、と手下に命令した。
「帝国がかぎ回ってる?あんたらの組織と侯爵の関係をかい?」いつの間にそこにいたのか、バルフレアが戸口に立っていた。「・・・酒場の奥がアジトとは、また、古典的だねぇ」
「なんだ、てめえら!」ヴァンを連行した1人がバルフレアに言った。 しかし、冷静に状況を見ていたバハーロは、男を制した。「待て・・・」
そして、バルフレアの後ろから現れたバッシュに気づき、表情が凍りついた。「あんた・・・・本当に生きていたのか・・・・!このことを、侯爵が知ったら・・・・」
「さて、何と言うかな。直接会って、聞いてみたい」バハーロの懸念を解消するかのように、バッシュは即答した。バハーロも物事の重大さを充分承知していた。 「どうすんですかい、旦那」側に立っていた、オンドール侯爵の側近に意見を促した。
「致し方あるまいな」側近はそう言って、バッシュに、侯爵邸に足を運ぶようにと指示をした。