疑念が信頼に変わる時

解放軍のアジトを去っても、もの言わぬバッシュの後ろ姿を追いながら ヴァンはあることが気になって、思わず話しかけずにはいられなくなった。
「アマリア・・・・あいつも解放軍だったんだな」
半ば、ぎくりとしたような表情をしてバッシュは振り返った。「・・・会ったんだな?」
「ナルビナ送りの前に、少しだけ」
「・・・きみは私の道に幾度となくからむ。奇縁だな」 苦笑してバッシュ。
「迷惑だよ」少年らしい、反抗的な口調で言うヴァンを バッシュは温かな目で見つめた。
「すまんな。迷惑ついでだ。バルフレアに会わせてくれ」
バッシュは、ラバナスタを出ようと思っていた。そのために、人目につく飛空挺定期便を使うわけにはいかなかった。
今、彼に必要なのは、彼の存在を隠しながら行動することが出来る「足」だった。
「・・・・これで貸し借りはなしだからな」
「借り?」
「ナルビナ。あんたがいなきゃ無理だった」
ヴァンの心は、 かつての仲間に罵るられながらも、 真実を伝えようとするバッシュの熱意に完全に敗北していた。
物静かなのに、強くて、それを少しもひけらかさず 確実に敵を倒していくその手腕と精神に、本当の強さを感ぜずにはいられなかった。兄レックスがバッシュについていった理由がわかるような気がするのだ。
今や、バッシュはナルビナの独房にいた頃のような貧相なイメージは全くなく、 ひたむきに国を守ろうとしている一人の騎士にしか見えなかった。

自分の後ろ姿をじっと見つめているヴァンの視線に気づき バッシュは思わず振り返った。先ほどまで、ひどく反抗的だった少年が 今は何かを求めるかのようにバッシュを見つめていた。バッシュはヴァンの視線が、自分から、その周りにいる子供達に向けられるのを確認した。バッシュも、ヴァンの視線の先に目を移した。
今まで気づかなかったが、ラバナスタには小さな子供が路上に溢れている。 みんな、痩せて、貧しい身なりをし、でも、とても明るかった。
彼らを見つめながらヴァンはつぶやくように話を始めた。「・・・・みんな戦争で親を亡くしたんだ。うちの親は、その前にいなかったけど・・。流行り病でさ」
「・・・すまんな、思い出させて」
「別にいいよ。もう5年だしな。それからはパンネロの家族が面倒を見てくれたんだ。でも・・・・戦争で、みんな死んだ」
「すまなかった」
「何度も謝るなって」ヴァンは笑いながら言葉を続けた。「オレだってガキじゃないんだから、もうわかってる。兄さんのことはあんたのせいじゃない。悪いのは帝国だ・・・。
・・・あんたを信じた兄さんは間違ってなかったんだ」


  • FF12ストーリー あまい誘惑