辺りは静まり返っていた。仄暗い明かりが、弱々しく地面を照らしている。
どうやら、どこかの地下道の途中に落ちたようだ。
バッシュの檻は落ちた衝撃で破壊され、檻の外に出てきたバッシュに、怒り冷め止まぬヴァンは飛びかかっていった。
「何人も死んだんだ!・・・・・おまえのせいで・・・」
しかし、バッシュはひるむことなく、若き少年の怒りを受け止めた。見かねたバルフレアは「逃げ切ってからにしておけ」となだめるが、ヴァンはまだ、冷静になれない。
「なら、やってろ。一生あの牢獄でな」
その言葉でようやくヴァンは、我に返ったのだった。
バルフレアは傷ついたバッシュを気使ったが、さすがは元名将。 ここを脱出するまで自分が盾になることを彼らに誓った。ヴァンは、信頼出来ない、という表情をしていた。
しばらく進むと、仄暗い光が、人造の光であることがわかった。光の側にバンガの商人が座っていた。彼は人なつこい笑顔で自分を「ブロッホ」と名乗った。
悪者ではなさそうだ。
それにしても薄暗く、視界が悪い。ヴァンがそう思っていると、 階段の途中に何かのスイッチがあることに気づいた。
スイッチを押してみたが、何もおこらない。ヴァンは階下にいるバンガの商人ブロッホに話しかけて事情を聞いてみた。
ブロッホは、ここがバルハイム地下道で、今は魔物が多くて人が近寄らない場所だと言った。作動しなかったスイッチは地下道のエネルギー供給スイッチで、 ブロッホが廃材で作ったヒューズ管を装着して作動させることが出来るようだった。
早速、スイッチにヒューズ管を装着してみると、薄暗かった部屋に煌々と電気が通った。
これで、地下道を渡っていけそうだ。
一行は、いざ、出陣した。
ヴァンは初めて遭遇する自分よりも何倍も強い魔物を前に、時々ひるみ、バッシュの後ろに回ることが多くなった。
バッシュには、見れば見るほどひどい怪我が身体のあちらこちらにあった。普通だったら痛くて根を上げて、歩けなくなるほどの状態だ。
しかし「痛い」とか「辛い」とか、弱音ひとつ吐かずに、武器も、盾も、防具もないのに、もくもくと地下道に巣食う魔物達に立ち向かっていく。
その姿を見て、ヴァンはバッシュに対する猜疑心がどんどんなくなっていく自分に気づいた。
彼は、本当に、国王を殺したのか?
そのひたむきな後ろ姿は、とても彼がそんな謀反を働くような男には見せなかった。
ならば、いったい、誰が国王を殺したのだ???
「君に真実を伝えるのが、私のつとめだな」
バッシュはそんなヴァンに、国王暗殺の夜に何があったのか、静かに語りはじめた。