ケルン王から契約の剣入手後、アーシェ一行はバーフォンハイムのレダス邸を訪れたが、リドルアナ大瀑布の付近で水上船が遭難、という事態に騒然としている最中だった。
「・・・どうやら遭難の原因は強烈なミストの干渉だ。あの海域はヤクトだが、飛空挺どころか水上船までいかれるとはな」レダスは困り果てた表情をしていたが、冴えない顔のアーシェに目をやり「・・・ギルヴェガンでの話を聞こうか。その顔だと当てが外れたようだな。やはり、シドの言葉は嘘か」
「ええ。けれど真実も知りました。それに、彼が何をめざしているかも」アーシェはそう言って、ケルン王から伝えられた事をレダスに話しはじめた。
「・・・神授の破魔石が切れ端にすぎんだと?不滅のオキューリアだか知らんが、厄介なものを」ため息をつくレダスに向かって、フランがアーシェの言葉に補足した。
「けれど『覇王の剣』で『天陽の繭』を砕けば、もう、新しい石はでてこないわ。繭が全ての破魔石の力の根源だというなら・・・壊せば『黄昏の破片』も無力になるかもしれない。 人造破魔石には効果がないかもしれないでしょうけど」
オキューリアが人間に力を授けたその歴史に干渉するための手段は、現在のところ、天陽の繭から破魔石を切り取る事のみ。繭を砕けば、新しい破魔石を得る方法は完全に失われる。また、破魔石は天陽の繭から切り離された状態にありながらも繭の影響を受けている。破魔石のミストは自然界から随時補充されるものの、その力を制御するためのエネルギーは繭から転送されているもので、 繭が破壊されれば石も使いものにならなくなる、というのがフランの持論だった。
「もうひとつ道がある。『契約の剣』で新しい石を切り出して、黄昏の破片や人造破魔石に対抗さ」バルフレアはアーシェを試すような言葉を言った。
「また石を使おうって奴がいたら、オレが許さんよ。あんなもの、捨てるに限る」
「どっちにしろ、まず『天陽の繭』を見つけろってことだろ。場所は絶海の塔・・・だったよな。 なんか知らないか、レダス」レダスの言葉に、ヴァンがようやく本題に入った。
「坊主、いい質問だ。ドラクロアで見つけたシドの研究資料に、それらしい記述があった。『ナルドア海』『リドルアナ大瀑布』そして『大灯台』・・・・そのために船団を送ったが・・・・遭難した」無念そうにレダスが言った。
「話がつながったようだな。ナルドア海の『大灯台』こそ『絶海の塔』。 船の機関を狂わせた強力なミストは、天陽の繭の存在を示す・・・何よりの証拠だ」
「そいつはけっこう。だが、どうやって行く?あの海域はヤクトだ」
バッシュの言葉にバルフレアがもの申した。
「おまえの飛空挺に組み込んでみろ。ヤクト対応型の飛空石らしい」レダスはそう言って、ひねくれもののバルフレアに飛空石を投げ渡した。
バルフレアは素直になれず、なおも反抗的な態度をとった。「これもドラクロアの戦利品かい?自分で使ったらどうだ」
「オレの飛空挺はビュエルバ産でな、規格が合わん。シュトラールに合えばヤクトを飛べるはずだ」
バルフレアは6年前、ドラクロア研究所にいた頃、シュトラールを譲り受けた。シュトラールは、帝国軍が採用を見送った試作軍用機。帝国の兵器会社が開発したものなので、帝国製の飛空石に対応している。レダスはそのことを知っていたのだ。彼はバルフレアに飛空石を渡した後、側で心配そうに立っているアーシェに向き直った。
「アーシェ王女、オレも同行させてもらう。かまわんな?」
アーシェは、はい、と頷き「ただ、ひとつ教えて下さい。あなたは、なぜそこまで?」
「死都ナブディス」レダスはきっぱりと答えた。
「故郷・・・・ですか?」
「ああ、忘れられん場所ではあるな」レダスは少し表情に影を落とした。
ナルドア海東の外海にはヤクト化した海域が広がっている。中心に浮かぶ孤島の東沖が穴の開いたように落ち込み、そこに海水が瀑布のように流れている。そのため潮の流れが複雑かつ激しく、船での航行はとうてい難しい。さらに、孤島を中心に渦巻く強烈なミストが、飛空挺や海洋船に用いられるグロセア機関を狂わせるため、人の接近を拒んできた。
レダスがドラクロア研究所で入手した飛空石は、帝国製の飛空挺に使用すればこの海域を容易に潜り抜けることのできるものだった。モーグリのノノにより、シュトラールにその飛空石が組み込まれると、アーシェ一行はレダスとともにナルドア海へ進路を向けた。
リドルアナ大灯台はリドルアナ大瀑布の孤島にそびえ建っていた。雲つくほどの高さを誇り、上空から見てもその姿は壮大だったが、地上に降り立って見上げると、改めてその巨大さに圧倒さた。
「絶海の塔とはよく言ったものね。頂上に鋭いミストを感じるわ」
塔を見上げながらフランが言った。
「眠っているのね、天陽の繭が」アーシェは、いよいよ自分の気持ちを決めなければならなかったのに まだ迷って、浮かない表情をしていた。
「アーシェ王女。まだ迷っているようだが、繭にたどりつくまでに答えを出してくれ」レダスは、そんなアーシェを真剣に見つめた。
「もしも私が、破魔石を手に入れる復讐の道を選んだら・・・・?」
「後悔するのはあんただ」アーシェの言葉に、レダスは厳しい口調で答えた。
アーシェとレダスを見届けていたバルフレアは 、側にいたヴァンに向かって言った。「おい、ヴァン。オレに万一のことがあったら、お前がシュトラールを飛ばせよ」
「万一って、なんだよ」ヴァンが不安そうに訪ねた。
バルフレアは、シドが天陽の繭の存在を確かめに灯台へ潜入してくる事を予測していた。
計り知れない力を秘めた天陽の繭が目覚めたとき、何がおこるのかが。ナブディスやリヴァイアサンを壊滅させた破魔石以上の破壊力を秘めていたとしたら・・・・
バルフレアは、そうならぬためにも父親と戦う事を覚悟していた。そして、父親によって自分の命が絶たれる事も。
「いろいろあるのさ、オレは主人公だからな」バルフレアはそう言って、さらに心配そうな顔をするヴァンを 頼もしく見つめた。「あとで、操縦法も教えてやるよ」
ヴァンにとっては、その言葉はとても嬉しかったが、今まで見たことのない悲しい表情をしているバルフレアがとても心配だった。