レイスウォール王墓の中は、現代の原理ではわからぬ古代の仕掛けが多数施され、迷宮のようだった。
墓所の入り口は、ガルーダに守られていて、中に入るにはガルーダを倒さなければならなかった。一行はガルーダを倒し、さらに危険な罠をくぐって奥へと進んで行った。
アーシェは、まるで何かに呼ばれているように思った。
危険な道を行っているのに、足が何かの力に引かれている。 そんな感覚だ。
同行したウォースラは、そんなアーシェから離れなかった。 そして、長く使えていた自分よりも、空賊であるバルフレアに思い入れをしていることが 気に入らなかった。
「あのような墓荒らしの同行は認めたくないものです」ウォースラはバルフレアを見つめていった。
「けれど私たちだけでは明らかに無力。それが現実でしょう? あの人は自分の利益だけを考えてるわ。利益を約束すれば 裏切らないはずよ」
アーシェの答えを不服そうに聞いていたウォースラはさらに言葉を続けた。「しかし、殿下。自分は・・・・」
「話は後で」ウォースラの言葉を遮るように、アーシェは厳しい声で答えた。
アーシェの中で、確実に、バルフレアに対する思いが変化しはじめていた。
直感・・・・。まずはバルフレアに対する直感だった。彼は空賊。でも、信頼できる何かを持っている。 きっと、自分を裏切らない。 そういう直感だ。
そして、バルフレアに惹かれている自分を理解できないでいるのも事実だった。そんな雑念を振り払うようにアーシェは言葉を続けた。
「・・・今はまず『暁の断片』を手に入れないと。・・・眠っているわ。地下の奥深くで」
「おわかりになるのですか?」
ウォースラの言葉に、アーシェは静かに頷き「・・・・呼ばれている気がするの」そう言って、何かに取り付かれたように歩きはじめた。
レイスウォール王墓の地下深くには、濃厚なミストが立ちこめていた。フランが、少し、顔を歪めていた。ミストが濃すぎる事が、彼女にとっては苦痛のようだった。
さらに、地下深いところに、祭壇のような場所が見えてきた。
もう何百年も、その祭壇を守って来たであろう召喚獣、炎にたぎる魔人ベリアスが、彼らの侵入を拒むように、襲いかかってきた。一行は計り知れない魔力をもつ召喚獣に立ち向かった。そして、ついに、ベリアスを倒したとき、 ベリアスは、彼らに服従し、彼らの指示に従う事を自ら認めた。
「・・・かつて神々に戦いを挑んだ、荒ぶる者ども・・・オキューリアに刃向かったけど 破れたものの正体が召喚獣なの。 敗れた彼らの魂は、ミストにつなぎ止められて、時の終わりまで自由を奪われた・・・・ ン・モゥ族の伝承よ」フランが口を開いた。
「王家には、覇王と魔人にまつわる物語が伝わっています。若き日のレイスォール王は 魔人を倒して神々に認められた。以後、覇王の忠実な僕になったそうです」フランの言葉に続いてアーシェが言った。
「・・・で、いまだに覇王の財宝を守っていたってわけだ」
「いいえ、財宝とはこの召喚獣そのものでしょう」バルフレアの問いに、アーシェがきっぱりと答えた。
「なんだと?」
自分を盗め、宝がある、などと空賊魂を挑発しておいて、 涼しい顔でなんてことを答える女だろう!バルフレアはアーシェのすました横顔をまじまじと見つめた。
「・・・私たちが手に入れた魔人の力には、計り知れない価値があります」
決まりきったようなことを言うアーシェを怒る気にもなれず 、バルフレアは呆れるようにして答えた。
「おいおい。オレとしては、もうちょいわかりやすい財宝を期待してたんだがね・・・・」
アーシェは何も答えずに、虚ろな様子で祭壇の奥へ進んでいった。
怪しい光を放つ「暁の断片」を目の前にし アーシェは、夫ラスラの幻影を見ていた。
ラスラとアーシェは、お互いが幼い時からの許嫁だった。政略結婚と言う障害を乗り越えるために、アーシェはラスラに全てを捧げ、愛し合っていると思いこもうとした日々。今、思えば、彼に愛されていたのかどうか、自分が彼を愛していたのかどうかもわからないうちに消えてなくなってしまった。その強い無念が、破魔石に吸収され、彼女にラスラの幻影を見せていたのだ。
この世にいるはずもない夫ラスラは、アーシェに優しく手を差し伸べた。
アーシェは、自分の結婚指輪にそっと触れて、幻影を懐かしむように静かに呟いた。
「・・・ラスラ・・・。仇は必ず・・・・」
そんな彼女を見守る一行には、何も見えてはいなかった。
唯一、ラスラの幻影を見ていたのはヴァンだった。しかしヴァンにはそれが、兄レックスにも見えた。 レックスが自分の前に現れて、手を差し伸べているようにも感じたのだ。
そんなはずはないと、 ヴァンは、幻影を振り払った。