破魔石の力

ジャッジ・ギースは満足そうに「暁の断片」を見つめていた。そして何かを思いついたように側にいる研究員に向かって言った。
「すぐに魔力を測定しろ」
研究員はヴェインが「暁の断片には手を出すな」と彼らに命令していた事を思いだし、怪訝そうな顔をして答えた。「本国に帰るまで、手を付けるなとのご命令では?」 ギースは、この石ころが本当に本物の破魔石であるのか知りたかった。そして、もし、そうなら、ヴェインを出し抜いて、自分が彼を支配する事も可能かもしれないと秘かな野望を抱いていたのであった。
「あらかじめ、真麌を確かめておかんでどうする?」ギースの野望を止める事が出来る者はここには誰もいなかった。
こうしてアーシェたちがシヴァに到着する頃、リヴァイアサンでは「暁の断片」の魔力の測定が始まっていた。
研究員たちは、リヴァイアサンに搭載している測定器の能力が測定に耐えられるものかどうか、その危険性について等々、ギースに説明しようとしていた。しかし、欲に目のくらんだギースには、もう、何も見えてなかった。研究員は仕方なく、破魔石を測定器の中に入れた。
リヴァイアサンの動力が、どんどん測定に流れていった。
「6700、6800、6900、7000!間違いがありません、神授の破魔石です!限界が見えません!」
興奮して研究員が言った。
「これが神授の破魔石・・・まさに神々の力だ。手にしたものは第2の覇王か?ヴェインでなくても構わんわけだ」彼はそれが自分である事を確信した。 本気でこの破魔石を自分の物にしようとしていたのだ。
そのとき・・・・
突然、リヴァイアサンに警告音が鳴り響いた。研究員は、反応係数が異常に増えている事に危惧を抱いた。
「な、なんだ、これは・・・!」
「どうした?」ギースも、鳴り響く警告音にようやく我に戻り、研究員に理由を問いただそうとした。


暁の断片が、測定器に入れられてから、フランの様子がおかしかった。普段から、ミストの異変には敏感な彼女だったが、異質な動力を流し込まれた暁の断片の異変を敏感に感じ取っていたのだ。そして、暁の断片の魔力が人口の動力に拒否反応をおこして、リヴァイアサンに警告音を轟かしていた頃、フランの精神状態も限界に達していた。
「あ、熱い。ミストが・・・・熱い!」そう言って、彼女は超人的な力とともに手かせを破壊して、 突然、側にいた帝国兵を投げ飛ばした。
ウォースラはその様子に驚いて「な・・・?、取り押さえろ!」と 恐れおののく兵士たちに命令したが、フランはなおも側にいた兵士を、計り知れない怪力で攻撃し続けた。
「どうしちゃったの?」唖然としてパンネロが呟いた。
「束縛されるのが嫌いなタイプでね」バルフレアはそう言いながら、自力で手かせのカギを外し、アーシェに向かって言った。
「あんたは、どうだい?」
「彼女と同じ。脱出しましょう!」
バルフレアはアーシェの手を引いて、脱出できそうな飛空挺を探しに向かおうとした。しかし、彼らの前にウォースラが立ちはだかった。
「やらせるか!空賊ごときに、ダルマスカの未来を盗まれてたまるか!」ウォースラの、バルフレアに対する嫉妬、憎しみが爆発していた。彼は、アーシェの心がバルフレアに盗られてしまった事が許せなかった。
そんなウォースラの前にバッシュが進み出た。そして、信頼しあう2人の邪魔をするなと言わんばかりにウォースラの介入を阻んだ。
「なぜだ、バッシュ。お前なら現実が見えるだろうが」
かつて供にダルマスカ兵として戦ってきた仲間であるバッシュの事をウォースラはよく知っていた。 ウォースラは現実的であったので、この2年間、反帝国活動をしてきた事に限界を感じていたし、 今、自分がどうする事が一番正しいのかよくわかっているつもりだった。しかし、それはある意味で帝国に反する事への「挫折」でもあった。
彼は、現実をよく見つめていた。これからは帝国に支えて生きるのだ。それが兵士としての、最も賢明な選択なのだ。ともに戦ってきたバッシュになら理解できると、彼は思っていた。
「だからこそ、あがくのだ」そんなウォースラの心を察するようにバッシュが答えた。
バッシュは、牢獄で長い監禁生活を強制されながらも 帝国に屈する事はなかった。彼は、過酷な精神状態にあっても、機会があれば帝国に反撃する事を諦めはしなかった。そして、バルフレアに出会い、ヴァンに出会い、再び、国王に使え、ダルマスカ復興を夢見ている。バッシュは、自分の信念を疑わなかった。ウォースラと違い、彼はどんな状況におかれても、一度も、帝国の力を恐れなかったのだ。
それが彼とウォースラの決定的な違いだった。
ウォースラとバッシュは、剣を構えて、戦いはじめた。


  • FF12ストーリー あまい誘惑