空賊レダス

ハルム・オンドールは最新鋭旗艦ガーランドのコントロールブースで演習を繰り返す解放軍の飛空挺を熱心に指揮していた。
「閣下、ナルドア支部より報告です」
通信機から聞こえて来た声に、オンドールは耳を傾けた。
「例の空賊が、帝国の勢力圏を抜けました。アーシェ殿下のご一行も共にバーフォンハイムへ」
例の空賊とは、レダスのことだった。
オンドールはため息をつき「殿下が無事で何よりだが、石の回収は失敗か・・・・」そう言って、静かに目を閉じた。
グラミス皇帝の暗殺後、ヴェインは反発するものは容赦なく排除し、ジャッジを統制、そして元老院を解体に追い込み、独裁官として帝国の全権を握った。さらなるアルケイディア世界制覇に危惧を覚えるロザリア帝国の攻撃に備え、帝国の将兵は士気を高めていた。
オンドールはビュエルバの元首として、昨今のアルケイディア帝国とビュエルバとの表向きの友好関係に限界が来ている事を感じていた。
彼がリヴァイアサンにバッシュを送り込み、アーシェを逃がそうとしたことにヴェインが気づかないはずない。ビュエルバに帝国が襲ってくるのも時間の問題と、病を理由にビュエルバの元首から退き、その卓越した手腕で集めてきた資金を活用し、解放軍、すなわち帝国軍の言う反乱軍の軍事能力を高めていた。


アルケイディア地方の南東に位置するバーフォンハイムは、法的には帝国の領土であったが、住民達は反帝国の声が強い街だ。それを利用して、オンドールの指揮する解放軍はナルドア支部の活動拠点にバーフォンハイムを選んでいた。かといって、住民達が町をあげて解放軍に協力しているわけでもなく 「必要ならば応じる」という彼らの姿勢にオンドールも甘えていた。そのバーフォンハイムの有力者である空賊レダスは、リヴァイアサンの爆沈が「神授の破魔石」により引き起こされた事を知り、未だに破魔石の力に頼ろうとしている帝国の勢力を抑えるために、解放軍の協力を得にオンドールの元を訪ねたことがあった。そのときオンドールは、初めて「ナブディス」も「リヴァイアサン」も破魔石により破壊された事、 その脅威的な威力について知ったのだった。
そう言った事があり、オンドールは、その日、自らレダス邸に足を向けたのだった。
「・・・しばらくは解放艦隊の演習を続ける。我々が、より大きな力を身につければ・・・・ヴェインは交渉の席に着くかもしれん」オンドールは、レダスに向かって言った。
「ヴェインは破魔石を握っている。リヴァイアサンを沈めるほどの切り札を手にしていながら・・・交渉に応じるとは思えん」
「だからこそ、貴公の帝都潜入を支援するのだ。貴公の言う通り破魔石が協力な兵器なら・・・ぜひ、奪取してもらいたい」
オンドールの言葉を聞き、レダスは持っていた酒ビンを乱暴に机の上に置いた。「夜光の破片・・・・あんたに渡すとは約束していない」
「石がなければ、別の力に頼らねばならん」苛立つレダスの気持ちを逆なでしないように、オンドールは彼の協力を得られなかった場合の、解放軍としての第2手段を口にした。
「ロザリア軍と手を組むのか・・・」レダスは、オンドールが帝国軍への対抗手段としてロザリア軍との共闘も視野に入れていると勘ぐっていた。
「・・・我々に失敗は許されないのだ」
オンドールは静かに答えた。 そもそもロザリア軍の目的は、解放軍を利用して帝国軍を弱体化させること。
それを承知でオンドールは、兵の頭数を揃えて帝国をけん制すべくロザリア軍を受け入れて来た。石が手に入るのなら、ロザリアと組む。そういったはっきりとしたオンドールの意思が、レダスをドラクロアに向かわせたのかもしれない。


  • FF12ストーリー あまい誘惑