ヘネ魔石鉱はアルケイディア帝国資源開発局が管理する鉱山で、質の良い魔石を産出していることで注目を浴びている。警備が厳重で、魔石入口には容易に近づけないとの情報をラーサーは入手しており、一行は道無き道をチョコボで進むこととなった。しかしチョコボは魔石鉱の入り口付近で急に歩みを止めてしまい、仕方なくチョコボを下りて、魔石の入り口に近づいた。周囲には異臭が漂い、ラーサーが顔をしかめた。
見えてきた魔石の入口に人が倒れていた。調べに行ったバルフレアが、帝国兵と、ドラクロアの研究員の遺体であることを確認した。どうやらここでも魔石の研究が行われているようだ。
さらに魔石鉱を進んでいくと、どこから湧き出てくるのか無数のモンスターが群れをなして襲いかかって来た。そのモンスターに襲われたのか、各所で帝国兵や研究員が力尽きて倒れていた。すでに死亡し、亡骸が腐敗し始めているもの、まだ僅かに息があり、必死で何かを訴えようとするもの・・・そんな彼らの変わり果てた姿にラーサーは思わず後ずさりしていた。
なぜ、彼らはこんなにも無惨な姿で死んでいるのだろう。厳しい軍事訓練を受けてきた帝国兵がこうも無惨に殺されるものなのか?
大人びているとはいえ、まだわずか12歳の彼は不安と恐怖を隠しきれぬ様子だった。それでも、ルースに引き続き、魔石鉱を調査したかったラーサーは、採掘現場の壁を触りながら喋りはじめた。
「ここの魔石、ルースの魔石鉱のとよく似ています。ドラクロアは新たな魔石鉱を探しているのでしょうね。解放軍が動けば、ビュエルバ産の良質な魔石を輸入できなくなりますから」
ラーサーは、ルースの魔石を人造破魔石の研究に利用していたヴェインが、オンドールの裏切りによりルースを使用できなくなることを考え、新たな採掘場を探していた事に勘付いていた。
多分、そんなヴェインがこのヘネ魔石鉱に目をつけたのであろう。さらに壁を調べながらさらに奥へ進むと、先ほどとは比べ物にならないほどの多くの帝国兵が倒れているのが視界に入ってきた。
ラーサーの顔がさらに青ざめていた。
次の瞬間、フランが敏感に何かに反応し、顔を上げた。 彼女は、普通ではないミストの流れを感じていたのだ。「・・・あの子なの?でも、このミストは・・・・」フランがそう言いかけた後、採掘場の奥の方に動く人影を見た。
ハッとして、彼女は思わず声を上げた。「ミュリン!」
ミュリンと呼ばれたそのヴィエラは何かに取り憑かれたようなうつろな瞳のまま、ぶつぶつと独り言を呟いていた。「・・・・ヒュムのにおい・・・・。力のにおい・・・・」
その姿にあっけにとられていたアーシェは、「・・・どうしたの?」と思わず尋ねた。
しかしフランが答える前に、ミュリンはきっとアーシェを睨みつけて指差すと、「寄るな!力に飢えたヒュムが!」と罵倒した。
アーシェはハッと息をのんだ。
ミュリンはそのままフラフラと奥へ去って行った。
フランにはわかっていた。ミュリンはこの異常なミストで暴走し、ヴィエラが潜在的に持つ力に目覚めてしまった。そして予想通り、その先にはミュリンによって呼び覚まされてしまった邪神ティアマットが待ち構えていた。
一行は怯む間も無く、ティアマットに向かっていった。
ティアマットの息の根を止めると、異様に重かった魔石鉱の空気が少し軽くなった。と、同時に取り憑かれたようにたださまよっているだけだったミュリンの手から、何かがこぼれ落ちた。
パンネロはハッと目を見張った。
人造破魔石だった。
ミュリンの手からこぼれ落ちた人造破魔石が、地面で砕け散ると、ミュリンの背後に謎の影が重なった。それが何の影だったのか確かめる間もなく、吸い込まれるように消え去ると、ミュリンも放心状態になり倒れこんだ。抱きとめたフランの腕の中でミュリンは静かに意識を取り戻した。彼女はフランの顔を見て、ほっとしたように微笑んだ。フランも、自分が知っているいつものミュリンに戻ったので安堵のため息をついた。
やがてミュリンはぽつりぽつりと話しはじめた。
「・・・ある日、森に帝国兵が現れたんです。でも、みんな、無関心でした。森が荒らされない限り、ヴィエラは何もかもを無視するんです。でも、私は不安で・・・・・ 帝国の狙いを突き止めたくて・・・・」
「それでここまで調べに来たら、とっつかまったと・・・・」バルフレアが言った。ミュリンは不覚そうに静かに頷いた。「無鉄砲は姉譲りかねぇ」そうしてからかうようにして、フランとミュリンを交互に見つめた。
「・・・・あの人たち、私に”石”を近づけたかったんです。人体がミストを取り込むとか、ヴィエラが最適だとか言って、その”石”の光を見たら、私・・・・」
フランは自分にも覚えがあった。
リヴァイアサンだ。
あの時も、暁の断片に流し込まれた異質な物質により、そのミストの変化に耐えられなくなって我を失ってしまったのだった。
「・・・・人造破魔石・・・・」ラーサーが何かに気づくように呟いた。
フランは静かに、その通りなのだ、これは人造破魔石がおこした変化なのだと、頷いた。
「パンネロさん、僕が差し上げた石、まだ持ってますか?」
「はい、もちろん」パンネロは大切そうに懐から人造破魔石を取り出し、ラーサーに見せた。するとラーサーらしからぬ乱暴な手つきで、パンネロの手から人造破魔石をひったくった。
「僕の想像以上に危険なものでした。あなたに渡すべきではなかった。すみません、こんなものを」頭を下げるラーサーを見て、パンネロは優しい口調で答えた。
「私にとってはお守りだったんです。リヴァイアサンでもみんなを守ってくれて・・・」そう言って、ラーサーの頭を上げさせた。
「・・・・危険な力だろうと、支えにはなるのよ」とても低く、冷たい声でアーシェが言った。
「かもしれないけどさ・・・」
ヴァンは、ガリフの地で自分がアーシェに言った言葉の数々をアーシェが理解していたものだとばかり思っていた。彼女が愛する人の死を復讐と取り違えない事、過去から逃げない事、その全てのことを理解しているものだとばかり思っていた。
しかし、このような状況を目の前にしてもなお力を求めるアーシェの心の闇をヴァンは垣間見て、言葉に詰まっていた。