覇王の遺したもの

ミリアム遺跡はパラミナ大峡谷の奥地にある、ガルテア連邦時代の神殿遺跡だった。もとは剣と力を司る古代神ミリアムを祀っていたが、レイスウォール王に王家の審判を託された当時のキルティア教大僧正が、王から授かった秘宝をこの地に収めたと伝えられていた。
その秘宝が「覇王の剣」だったとは・・・
グラミス皇帝が暗殺され、ヴェインが帝国の権力を握った今、アーシェがダルマスカの王位を求める事は都合のいい状況を作るに他ならない事を、アーシェはよく理解していた。破魔石を使う事が叶わぬのなら、それ以上の力を求めればよい。今こそ「破魔石」を捨て、それに変わる力を求めよう。その破魔石を砕く「覇王の剣」にはいかなる力が込められているのか。アーシェは早くそれを確かめたいのだと、自分に言い聞かせることで精一杯だった。


ミリアム遺跡は、かつて訪れたレイスウォール王墓のように、様々な仕掛けが施されていた。一行はあちこちにある「古の扉」を開け、遺跡の奥へと進んで行った。
やがて、フランがミストの流れを敏感に反応し始め、導かれるまま進むと、大きな広間に出た。そこで彼らを待ち構えていたのは召喚獣マティウスだった。 彼らは力を合わせてマティウスを倒した。やがて、力つきたマティウスは、彼らを主と認め、今後、命令に従う事を約束した。大きな力を得た彼らは、さらに遺跡の奥に進んだ。
覇者の間に祀られし「覇王の剣」はまるでアーシェが来るのを待っていたかのように、美しく輝いていた。アーシェは、剣の柄を力強く握り、祭壇から下ろそうとしたが、あまりの重さに支えきれず、思わず姿勢を崩した。
ヴァンが、あんなへっぴり腰で魔石を壊せるのかと疑わしく思った。
「こいつで本当に破魔石を壊せるか、試してみれば?」
ヴァンの言葉に、びっくりしてアーシェはよろよろしながら振り返った。
「・・・ヴァンにしては、いい案だ」破魔石の破壊を促すようにバルフレアも賛同した。バルフレアは、これまでのアーシェの心の動きを注意深く見つめて来た。彼は、あることを恐れていたのだ。 アーシェの心が石に取り憑かれていて、 石を壊し、平和を取り戻すと言っているにもかかわらず、実際にはまだ石を捨てきれずにいるのではないかと。だから、彼もアーシェの気持ちを確かめたかった。「・・・暁の断片は、役立たずなんだろ?」
バルフレアの言葉に、アーシェはうつむき、しばし、黙って考え込んでいた。しかし、やがて顔を上げ、ずっしりと重い覇王の剣を、暁の断片に向け、振りかざそうとした。
その時・・・・
暁の断片から、ミストがざわめき、夫ラスラが現れた。
彼はまるで、魔石の破壊を阻止するようにゆっくりと首を横に振った。
アーシェには、もう、何も考えられず、剣を振り上げてしまった勢いで、そのまま魔石めがけて鋭い刃は振り下ろされた。
しまった、とアーシェは思ったが、剣が余りにも重くて、バランスを崩したお陰で、刃は魔石を反れ、そのすぐ脇の床に突き刺さった。アーシェは思わず安堵のため息をついた。
剣が魔石から反れた瞬間、先ほどからざわめいていたミストも消えた。
フランが、敏感に反応し「・・・・ミストが、消えた・・・?」と不思議そうに言った。
アーシェは、床に鋭く突き刺さった覇王の剣を見て「・・・この剣なら、破魔石に勝てるわ」
「当たればな」バルフレアが、自分の本心を見透かしたような事を言ったので アーシェは身をこわばらせた。彼女はヴェインが破魔石を使用して世界を征服しようとしている事を否定している。その一方で、自分も破魔石の力を得、王国の再興を目指している。その矛盾に対する答えがまだ見つけられずにいた。
そんなアーシェに対し、バルフレアはある決心をしていた。
彼にとって、彼女を石に対するこだわりから救う事が、自分にとっての使命のように感じた。バルフレアにとっての魔石は、彼にとっての苦い過去をまざまざと思いださせた。いずれ彼女に、そのことを伝えよう。 アーシェに、間違いを犯させないように。それ以上、バルフレアは何も言わず、立ち尽くすアーシェをおいて、覇者の間を去って行った。
ヴァンがその後を追おうとした時、ふとアーシェは我に帰ったようにヴァンを呼び止めた。
「・・・・ねぇ」
ゆっくりとヴァンは振り返った。
「また、あの人が見えた?」
ヴァンは、アーシェが誰の事を言っているのかすぐにわかった。
「オレには・・・・、見えなかった。兄さんの姿も・・・もう、何も、見えなかった」
そうして、アーシェをおいて、バルフレアに続き、覇者の間を去って行った。


  • FF12ストーリー あまい誘惑