王女救出

アーシェが発着ポートを去ると、ヴァンたちも拘束されたまま帝国兵に連行された。まだ若いヴァンは、これからどうなるのかと不安を隠しきれない様子でいた。そんなヴァンが近くにいることを確認したバッシュは、不安な様子を少しも見せず、ヴァンに話しかけた。
「きみが持っていたとはな。これも縁だろう」
バッシュが言っているのは「黄昏の破片」のことだった。
「オレを巻き込んだのも縁かよ」ヴァンが答える前に、バルフレアがぼやいた。面倒が次々と起こり、辟易としている様子だった。
二人の変わらぬ様子に、ヴァンの不安はようやく晴れた。二人は無駄口を叩き、帝国兵の隙を読んでいるのだ。
「黙って歩け!」彼らを連行している帝国兵が威圧的に怒鳴ったが、バッシュは動じずバルフレアのボヤキを真摯に受け止めた。
「・・・あの場では他に手はなかった。仕方あるまい」
「任務が優先か。さすが将軍閣下」皮肉交じりにバルフレアは答え、さらに皮肉っぽく「それにしても、あれが王女とはね」と、これまで会ったことのないタイプのアーシェについて語るなどして、余裕を見せた。
「貴様ら、静かにしろと・・・・」
余裕有り余るバッシュとバルフレアにとうとう腹を立てた帝国兵は彼らとの距離をさらに縮めた。その隙を狙い、二人は帝国兵に襲いかかっていた。その様子をヴァンは感心して見ていた。
とはいえバッシュとバルフレアは、手錠をされていたため、素早く帝国兵を倒すのに苦戦はしていた。そこへ、一人のジャッジが参戦し、ヴァンもよもやここまでと観念したとき、そのジャッジは、他の帝国兵を次々と倒した。ヴァンが唖然としていると、ジャッジは兜を脱ぎ、正体を現した。
ウォースラ・ヨーク・アズラスだった。
「・・・侯爵の手引きか?」バッシュは尋ねた。
「初めて頭を下げた・・・」
ウォースラはオンドールがアーシェとバッシュの死亡を公表してから、彼に不信感を抱いていた。しかし、生存していたバッシュに真意を確認した後、入れ違いでオンドール侯爵邸を訪ねていたのだ。ウォースラは全ての経緯を知り、オンドールに頭を下げ、アーシェ救出の協力を要請したのだった。「いいか、ダルマスカが落ちて2年、俺は一人で殿下を隠し通してきた。敵か味方かわからん奴を、今まで信じられなかったのだ」
「苦労させたな、俺の分まで」ウォースラを労うようにバッシュが言った。
ウォースラは、アーシェを助け出すつもりでいた。バッシュも賛同し、彼らはアーシェ救出のために、リヴァイアサンの内部へ潜入した。

 

アーシェはリヴァイアサン深部の、粗末な倉庫に監禁されていた。
ヴァンたちは門番になっていたジャッジたちを倒して、倉庫の鍵を入手し、ついにアーシェを見つけ出した。
「殿下、ご無事で」ウォースラが部屋に入ってくるなり、アーシェは思わず立ち上がった。
「ウォースラ・・・・」アーシェは緊張の糸が切れたのか、よろめいてウォースラの腕に倒れかかった。思わず支えたウォースラの腕の中で、アーシェは後ろに立っているバッシュに気づいた。表情が見る見る険しくなった。
また殴るのでは、とヴァンは、それを避けるために「グズグズするなよ。時間がないんだぞ。パンネロが待っているんだ」と、気を紛らわせた。
バルフレアも、ここで痴話喧嘩は見たくなかった。「さっさとしてくれ。敵が来る」そう言って、内輪揉めを避けようとした。
アーシェも、危機が差し迫っている時に、バッシュに恨みを抱いている場合でないことはわかっていた。
「話はのちほど」ウォースラに促され、黙ってその後に続いた。

彼らが倉庫の外に出ると、艦内は警報が鳴り響いていた。アーシェが脱走したことがもう知れ渡ってしまったのだ。
「殿下、我らが血路を開きます」バッシュが力強く言った。
「私は裏切り者の助けなど・・・・」先ほどから抑えていた思いが爆発し、アーシェはバッシュに怒鳴りつけた。
「なんとしても必要です。自分がそう判断しました」
アーシェをなだめるように、ウォースラが言った。アーシェはウォースラを見つめ、その瞳に偽りがないことを確認し、黙ってしまった。
「引き返すぞ。艦載艇を奪って脱出する」アーシェの思いに配慮する余裕など今はなかった。ウォースラはヴァンたちを導いて、警報の鳴り響くリヴァイアサン艦内を疾走した。


  • FF12ストーリー あまい誘惑