ヴィエラの“サガ”

ヴィエラ族は森の精霊の声を聞き、天候の変化や森に生きる者の動きを感じ取る。中でも森の声を聞く力に長けた者が里長に選ばれていた。
「森のささやきを聞いた」
里長であるヨーテは、すでに森の声でヴァンたちがミュリンを救い出したことを知っていた。
里に戻ってきた一行に感謝の意を示すように ヨーテはヴァンに、用意してあった光るしずくのようなものを手渡した。
「『レンテの涙』がお前を赦す。森を超えてどこへなりと行くがいい」
そんなヨーテの前にミュリンが必死の形相で進み出た。「それだけなの?森を出て知ったわ。世界は動いているの。 なのにヴィエラは、何もしないと言うの?」
ミュリンの言葉に動じる事もなくヨーテは静かに答えた。「ヒュムの世にかかわるのは・・・・ヴィエラの”サガ”ではない」
「嫌なのよ!イヴァリースが動こうとしてるのに、ヴィエラだけが森にこもっているなんて!私だって森を出て自由に生きたいのよ!」
聞き分けのない子供のような口調のミュリンに、フランは、残酷な答えを言った。
「・・・やめておきなさい。あなたはヒュムに関わらないで。 森に止まり、森とともに生きなさい。それがヴィエラよ」
「でも、姉さんだって・・・!」
「もう、ヴィエラではなくなったわ。森も里も捨て、自由を手に入れたかわりに、 過去から切り離されてしまったの。今の私には、森の声も聞こえない。 ミュリン、あなたもそうなりたい?」「
「姉さん・・・・」
「いいえ。あなたの姉はもう1人だけ」フランは冷たい口調をやめなかった。

ミュリンは、フランが自分が自由になる事に賛成してくれると思っていた。自由を求めた彼女だからこそ、理解してくれると思った。しかし、彼女の言葉はミュリンにとっては絶望的な、残酷な言葉だった。
「・・・私のことは忘れなさい」フランの決定的な言葉に、ミュリンは耐えられなくなって駆け出して去って行ってしまった。その後ろ姿を見届けたヨーテが、フランに歩み寄って来た。
「嫌な役をさせたな」
「あの子は掟に反発している。掟を支えて里を導く立場のあなたより・・・・」そう言って、フランは懐かしそうにヨーテの顔を見つめた。「掟を捨てた私が止めた方がいいわ」
ヨーテは深く頷いた。
「・・・・頼みを聞いて」フランは、さらに懐かしそうにヨーテを見つめ、一行が聞いた事もないような 少し甘えた口調で続けた。「私のかわりに声を聞いて・・・・。森は私を憎んでる?」
ヨーテは、静かに目をつむった。彼女の足下から、心地よい風が巻き上がり、一瞬、あたりが静まり返った。ヨーテは、しばらく目を閉じていたが、やがて、目の前にいるフランを愛おしむような眼差しで見つめて言った。「・・・・去って行ったおまえを、ただ懐かしんでいるだけだ」
「・・・ウソでも嬉しいわ」フランはそう答えて、ヨーテに背を向け去ろうとした。
「気をつけろ。森は、お前を奪った『ヒュム』を憎んでいる」
フランはヨーテの顔を見て、「・・・・今の私は『ヒュム』と同じよ、そうでしょう?」そうして、もう二度と見る事もないであろう、ヨーテの顔を今一度懐かしく眺めた。
「さよなら、姉さん」それが、フランとヨーテの、永遠の訣別の言葉となった。


  • FF12ストーリー あまい誘惑