アルケイディア帝国第11代皇帝グラミス・ガンナ・ソリドールは、31歳の若さで即位し、侵略政策を積極的に行ってきた国王だった。ソリドール家の維持を何より重んじており、反逆をくわだてていた長男と次男を三男ヴェインに殺害させた。そんなヴェインの非情な実行力を評価する一方で、ナブディス壊滅以来、彼の独断を警戒もし、腹心のガブラスに監視をさせていたのであった。また、ヴェインの兄殺しはジャッジ・マスターなどごく一部の人間にだけしか伝えておらず、その理由も「長男と次男が帝国に対し反逆をもくろんだので、ヴェインに処分させた」と言った感じだった。
その頃アルケイディスでは、ジャッジ・マスターたちが、ヴェインが元老院たちに失脚を迫られていることを話題にしていた。なかでもジャッジ・ベルガは、ヴェインの軍事的才能を大変高く評価していたので、彼の失脚はあり得ない事を各ジャッジに力説していた。しかし、ヴェインのやり方に反感を得ているジャッジも多く、ドレイスもその中の1人だった。
ヴェインを評価し続けるベルガに対し、ドレイスは、かつてヴェインを高く評価し、それによってナブディスの壊滅を引き起こし、消息不明になってしまったジャッジ・ゼクトを例に出してベルガに注意を促していた。
ドレイスの警告にベルガは耳も傾けなかった。
ドレイスは、ヴェインが帝位を狙って兄たちを排除したと考えていた。 彼女はそれほどの非常さをヴェインに対し感じていて、徐々に反感を募らせていったのだ。ベルガは、そんなドレイスに対し、たとえ実の兄であろうと帝国に反逆する者は討たれて当然、ヴェインは自らの役割を果たしたにすぎない、とドレイスに反論した。ザルガバースもそんなドレイスに対し、兄たちの処分はあくまでも皇帝グラミスの判断で行われた事であり、ヴェインの意志ではなかった事を説明し、口を慎むように注意した。
3人が論議をしているところにガブラスが現れ「ご一同、召集命令です。ヴァイン殿がご到着なさいました」と告げた。
「承った」ザルガバースが答えると、ガブラスとドレイスを後にして、ベルガとともに去っていった。
その後ろ姿を見送ったドレイスは耳打ちするようにガブラスに言った。「ラーサー様はブルオミシェイスに向かわれた。大僧正に働きかけて、反乱軍の動きを封じるおつもりだ」そうはいってもオンドールがおめおめと引き下がるようには思えんな、とドレイスは続けた。
「いずれにしても、反乱軍の行動が多少なりとも鈍れはよい。これでロザリアの侵攻も遅れ・・・我が国が、備えを固める時間が稼げる」ガブラスはドレイスに対し、全てがグラミス皇帝の狙い通りであると意見した。
ドレイスは、幼いラーサーの成長ぶりを評価する一方、元老院たちがヴェインを失脚させ、幼いラーサーを皇帝につかせようとしている本当の意図・・・世間知らずのラーサーを自分たちの人形にして思いのまま操る事を企んでいる意図を察していたので、もしもラーサーが元老院たちの意のままにならなかった時に、ラーサーがどうなってしまうのか、懸念を抱いてもいた。ドレイスの懸念に対し、グラミスにラーサーの護衛を任されているガブラスも元老院たちの動きには敏感だった。
「まずいな、陛下にも報告しておく。ガブラス、卿と私で、ラーサー様を守り抜く、いいな」
ドレイスの言葉に、ガブラスは頷いた。